「タイで不妊治療」という選択肢を知って、気になってはいるけれど、
「タイの医療って心配…大丈夫?」
「海外の方が高くつくんじゃない?」
「日本とタイだとどっちがいいんだろう?」
そんなふうに、調べれば調べるほど迷いが深まっていませんか。
ご家族の駐在帯同でタイに住んでいる方、保険の回数や年齢の壁が近づいている方、受けたい検査が日本では受けられない方にとっては、タイが現実的な選択肢になります。
この記事では、日本とタイの不妊治療を「費用」「技術」「サポート」の3つのポイントから、メリット・デメリットを紹介します。
1. まずは日本の「今」を知ろう(2026年)
比較の前に、日本の不妊治療がこの数年でどう変わったのか、おさらいしておきましょう。
「いざとなったら日本に帰って治療すればいい」と思っている方こそ、ここが大事なところです。
保険適用で、ずいぶん身近になった
2022年4月から、体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)が健康保険の対象になりました。自己負担は3割で、採卵から胚移植までの1周期あたりだいたい15〜20万円が目安。
さらに、高額療養費制度を使えば、実際の負担はもっと軽くなることもあります。
その効果もあって、2022年に日本で生まれた赤ちゃんのおよそ10人に1人が体外受精などで誕生しています。不妊治療は、もう特別なことではなく、ごく身近な医療になっているんですね。
ただし、保険には「条件」がある
ここが大事なポイントです。
- 年齢:治療開始時に女性が43歳未満であること
- 回数:胚移植の回数で、40歳未満は1子につき6回まで、40〜42歳は3回まで
この枠を超えると全額自己負担の自由診療になり、1周期あたり約50〜100万円と、費用は一気に跳ね上がります。
PGT-A(着床前検査)は、受けられる人が限られる
受精卵の染色体を調べるPGT-Aは、日本では学会のルールのもとで行われていて、受けられる施設も対象も限られています。2025年9月に対象が広がり、「体外受精を繰り返しても結果が出ない方」「流産を繰り返している方」「35歳以上の方(目安)」も受けられるようになりました。
ただし、PGT-Aは保険がきかず全額自費。しかも、保険診療と同じ周期で組み合わせることができないため、PGT-Aをする周期は採卵から移植まで丸ごと自由診療になります。ここが費用面の落とし穴になりやすいところです。
2. タイの不妊治療って、どんな感じ?
タイは「医療観光大国」として世界的に知られていて、バンコクには国際認証(オーストラリア・NZのRTACなど)を取得した不妊治療専門クリニックがいくつもあります。
欧米の新しい技術が早く取り入れられ、外国人患者さんの受け入れにも慣れています。
「タイは何でも自由」ではありません
意外に思われるかもしれませんが、タイにもちゃんと法律があります。2015年にできた生殖補助医療の法律(ART法)で、次のことが決められています。
- 商業的な代理出産は禁止
- 卵子・精子の売買は禁止
- 医学的な理由のない性別選択は禁止
- 治療を受けられるのは法律上の夫婦(婚姻証明書が必要)
「タイなら性別が選べる」というイメージを持っている方もいますが、非医学的な性別選択は法律で認められていません。ここは誤解が本当に多いので、治療を始める前に正しい情報を確認しておきましょう。
選択肢の広さがタイの魅力
そのうえで、タイの強みは「選べる治療の幅」です。
- PGT-A:日本のような対象条件がなく、希望と医師の判断で受けられる
- IMSI:通常の顕微授精より高倍率(6,000倍ほど)で、状態のよい精子を選べる技術
- タイムラプス培養:受精卵の成長を24時間見守れる培養器
- 卵子凍結:パッケージ料金で計画的に進めやすい
日本では「対象条件に当てはまらないから受けられない」検査が、タイでは普通の選択肢として提示される。この差が、タイを選ぶ方の一番の理由になっています。
3. 費用比較:「タイの方が安い」は半分ホント、半分誤解
一番気になる費用の話。ここは正直にお伝えします。
| 項目 | 日本(保険診療) | 日本(自由診療) | タイ・バンコク |
|---|---|---|---|
| IVF/ICSI 1周期 | 約15〜20万円 | 約50〜100万円 | 約60〜120万円 |
| PGT-A | 対象外(する周期は全額自費に) | 検査費+周期費用で高額に | 1胚あたり約17万円、3胚で約33万円など |
| 回数制限 | 40歳未満6回/40〜42歳3回 | なし | なし |
| 年齢制限 | 43歳未満 | なし(施設判断) | 施設判断 |
| プラスの費用 | 一時帰国の航空券・滞在費 | 一時帰国の航空券・滞在費 | なし(バンコク在住なら通院のみ) |
※為替(1バーツ=4円台)やクリニックによって変わります。あくまで目安です。
保険の枠内で治療できるなら、日本が一番安い。これははっきりしています。
ただしこれは「日本に住んでいて、保険が使える人」の話。バンコク在住の場合は、一時帰国の航空券や滞在費、そして「治療のために日本にどれだけ滞在できるか」を合わせて考える必要があります。
話が変わってくるのは、保険の枠を出たとき。
回数や年齢の制限を超えて自由診療になった場合や、PGT-Aを組み合わせたい場合、日本では1周期100万円を超えることも珍しくありません。この段階になると、渡航費を入れてもタイと同じくらいか、内容によってはタイの方が抑えられるケースが出てきます。
日本は保険で安い。ただしバンコク在住なら、一時帰国のコストと時間も「費用」のうち。トータルで比べると、住んでいる街で治療できるバンコクの方が現実的になるケースが多いです。
4. 技術と制度:「守られた日本」と「選べるタイ」
| 日本 | タイ | |
|---|---|---|
| PGT-A | 学会管理下・対象限定(2025年9月に拡大)・全額自費 | 希望ベースで広く実施 |
| IMSI | 実施施設が限られる | 多くの専門クリニックで実施 |
| 性別選択 | 不可 | 医学的理由のない選択は法律で禁止 |
| 卵子凍結 | 実施可(自費) | 実施可・パッケージ料金が一般的 |
| 卵子提供 | 事実上ほぼ不可 | 無償ドナーに限り可(条件あり) |
日本の良さは、学会と保険制度に「守られている」安心感。全国の治療成績データも公開されていて、透明性は高いです。
タイの良さは、国際水準の技術を「条件に当てはまるか」ではなく「自分が希望するか」で選べる柔軟さ。特に、日本でPGT-Aの対象にならなかった方にとっては、実質的に大きな違いになります。
「制度に守られた安心の日本」か、「選択肢を自分で選べるタイ」か。ここが一番の違いです。
5. サポートと生活面
- 条件を満たせば保険適用で費用を抑えられる
- すべて母国語で完結する安心感
- 実家など家族のサポートを受けやすい
- 日本語通訳・LINE相談で言葉の不安は小さい
- 待ち時間が短く、スピーディーに進む
- 夫婦で一緒に通院しやすい
「言葉の壁」は海外治療の一番の不安ですが、バンコクの主要クリニックではかなり解消されています。
逆に、一時帰国して日本で治療する場合は、採卵周期だけで2週間以上の滞在と頻回の通院が必要です。航空券や滞在費に加えて、「そのあいだバンコクの家を空けられるか」も含めて考えておきましょう。
ちなみに、一時帰国の予定があるなら、ホルモン検査や感染症検査だけ日本の保険診療で済ませて、結果を持ってバンコクで治療を始めるのもおすすめです。現地での検査費用を抑えられます。
6. で、結局どっちがいいの?
どちらが「上」という話ではなく、あなたが今どのステージにいるかで答えが変わります。
- 本帰国が近く、年齢的にも急がなくてよい
- 扶養で保険が使え、まとまった一時帰国ができる
- 実家など日本でのサポートを重視したい
- 帯同期間がまだしばらく続く予定
- 年齢的に「帰国まで待つ」のが不安
- PGT-Aなど、日本では条件が厳しい検査を受けたい
まとめ
日本とタイの不妊治療をひとことで整理すると、
日本:保険が使えれば費用面で有利。ただし海外在住だと保険が使えない場合もあり、一時帰国のコストと時間がかかる
タイ:バンコク在住なら、国際水準の治療+日本語サポートを、住んでいる街から通えて受けられる現実的な選択肢
不妊治療は、時間との勝負でもあります。駐在期間には限りがありますが、年齢は待ってくれません。「本帰国してから考えよう」と先送りすることが、実は一番のリスクになることも。バンコクにいる今だからこそできる選択肢を、一度確認してみてください。
この記事が、おふたりに合った選択を考えるきっかけになればうれしいです。
※本記事の制度・費用の情報は2026年7月時点のものです。法律や料金は変わることがあるので、最新情報は各医療機関にご確認ください。
参考情報(執筆時参照)
- こども家庭庁「不妊症・不育症 保険診療の基礎知識」
- 厚生労働省「不妊治療の保険適用について」
- 日本産科婦人科学会 ARTデータブック2022/PGT-A細則改定(2025年9月)
- タイ Protection for Children Born through Assisted Reproductive Technologies Act, B.E. 2558 (2015)



